韓国でのおもてなし

韓国でのおもてなし

秋が一日一日と深まっていますね。
今秋のひと時を韓国で過ごすことになるとは、年始には予想もしておらず、夏から準備した三泊四日の濃密な仕事をしてきました。

韓国企業に対し日本企業が自社の開発をプレゼンテーションし、二社の力で世界の循環した未来を創っていこうという総勢1000人近い方のイベントが行われ、日本企業からのおもてなしとしてお茶を点てるために私も韓国へ行ってきました。

仕事の合間に社員の方から発表の一部を説明していただき、2030年2035年の医療、環境、暮らしが目覚ましく発展する世界に触れ、多くの企業戦士たちが未来を創っている姿を目の当たりしてきました。

親切な韓国の人々の対応、プレゼンテーションの内容から、他の惑星にでも来たような別次元のものに触れた錯覚を起こしました。

さて、私たちの仕事は、韓国企業に対する日本のおもてなしを通し両社が手をつなぎ未来を創っていく一助として一服のお茶を点てる事が使命でした。
常日頃していることと何も変わりがないのですが、一会の目的に一服のお茶が添うように、お茶、お菓子、茶道具の取り合わせ、当日の着物の文様から二社の和合が一層深く築かれ明るい未来を創っていかれることを祈る思いで取り合わせを準備いたしました。

日本三景の棗を使う事で日本を伝え、蔦の絵が描かれた茶碗から日本の今「秋」を連れて、飾火箸の飾りは二社の和合を仲睦まじい姿の鴛鴦で表現しました。

美しい町金沢の菓子、しっかりした味の鳥取県大山の抹茶を使い、少しでも日本を感じていただけるようにしてみました。
韓国の大きなイベントでお菓子や抹茶を使う事をお店の方へ伝えるととても喜んでおられましたね。「先生!がんばってきてね!!」と。

茶道具や抹茶、お菓子の力、そしてお弟子さん二人と一丸となって韓国に入りました。

イベント会場のエントランスの中央に、二畳の畳の立派な設えを作って頂き、お茶を点てました。舞台でお茶を点てていると、半東をしているお弟子さんと8年日本に留学したという方との会話が聞こえてきました。
「一期一会という言葉がありますね。遠い国から茶道具を持って来てくれたのですね。
ここにいる人たちは、きっとお点前を見たこともなければ、これから抹茶を飲むこともそんなにないでしょう。再び会うことはきっとないけれど、ここで出逢った人達に、最初で最後の一服のお茶を点ててくれてありがとう。いい企画ですね」
「ありがとうございます。そのように感じていただけて光栄です」と。

過密スケジュールのお忙しい中、韓国企業の会長、社長、副社長の皆さまにもお席に座っていただき一服のお茶を点てることができました。茶道具の説明から日本を伝え、少しでも両社の繫栄から持続可能な未来を創っていただけるよう祈っていることを伝えることが出来ました。どこまで伝えることが出来たかわかりませんが、今できる精一杯をしてきました。

 通常、茶室では道具やお茶、お菓子の取り合わせから亭主の心を客が受け取り少ない言葉で、小さな茶室の中でエネルギーが交換されていることを感じます。しかし、今回は大きな会場で、基本、茶道をご存じない方に対するおもてなしである以上、言葉を使って伝える必要があります。遠い所からご覧になっている方にも気持ちが届くようにと多少大きめの所作をするように気を付けましたね。

韓国企業の社長へ、お点前を止めて言葉で思いを伝えたときに、両手に茶わんを持ったまま両目をゆっくりと閉じて開いてくださいました。何かが届いていればいいのですが・・・。

 一日目から周囲のスタッフの皆さんと気持ちよい現場が出来上がり、最後の別れの挨拶は笑顔で「また!」でした。再び会えるかわからいけれど、今を精一杯過ごした後に味わえるチームの達成感を皆が持てたように感じましたね。

三泊四日の韓国出張中、ご一緒した現場の韓国のコンパニオンの女性たち、エントランスにいた韓国の若い男性スッタフ達、私たちが宿泊したホテルから出るとき帰る時に気持ちのよい声をかけてくださったホテルマンの金さん、食事に出かけた先のスタッフの方、タクシードライバー、どの方も本当に親切で、改めて日本での自分の暮らし方を考えなおしたいと思う学び多い体験をしてきました。

最先端のインフラを創ること、そして、明るい未来は人々の小さな行いの積み重ねで作られていることを隣の国に行って改めて学ぶことができました。

帰りの飛行機の狭い座席に、私を挟んで両側にお弟子さんが座って横並びで機内食を頂きました。「今回の経験を通して明日からどう過ごしますか」と聞いてみました。
お弟子さん達は、この機会からとてつもなくたくさんのことを掴んでいるはずです。その中から端的に
「・・・韓国語を学びます」
「茶道を伝えます・・・」と返事が返ってきました。
この言葉の中には何重にも織りなしたものが含まれていることでしょうね。
それぞれの触れた思いから出てきた言葉ですね。
私は「韓国の方たちのように、暮らしの身近なところに、もう少し気持ちを寄せていきたいと思います。道で出逢う知り合いでもない人にも声をかけたり、ケアをする自然な親切を心がけたい」そう思う韓国出張でした。

三人で小さなグラスにビールを注ぎ乾杯しました。
隣国とは仲良くすると言いますが、教えからではなく、私の心が「もっと仲良くなりたい」と思わされる隣国 韓国でした。

一碗のお茶の出会いに感謝!

令和五年和暦神無月新月