風からの届け物

風からの届け物

六月の爽やかな風を感じる日、稽古場の掃除をして仏壇にお茶を供え着物に着替えている頃に、お弟子さんたちがやってきました。

朝一番に来る人たちは、私と一緒に掃除や準備を手伝ってくれるので、あっという間に稽古場が整いますね。その日の花や軸、お菓子に似合う器も一緒に準備をするので、取り合わせなども自ずと身に付けて行かれます。

稽古場は、昔は商店街でにぎわっていた細い路地に面したところに建つ文化アパートの一階部分に構え、路地に面した所はガラス戸になっており、道を行きかう方の気配を感じながら日々、稽古をしています。

今は、商店街とし活発に活動することなく、隣保に住む人たちの主たる路地となり、時間によっては小学生たちの通学路となっていますね。

その日は、戸を開けて、裏の勝手口に抜ける心地よい風を感じながら稽古をしていました。
午前中のお弟子さんたちが帰り、ひと段落した頃に一人の方が来られ、濃茶のお点前をしていました。

すると、戸の方から人の視線を感じるので振り返ってみると、身幅よりも大きいランドセルを背負った男の子が下校途中に稽古をじっと見ていたのですね。
戸の真ん中に立つ少年の後ろから差し込む光と一体になった姿は神々しくらいでした。

体格から低学年だろうと想像します。真っ黒な眼鏡、熱心に歩いて来たのでしょうね、汗で髪が濡れていました。

こちらは稽古中だったので、声をかけずに微笑みを送ると、かわいらしい微笑みをしてくれました。しばらくしてもう一度、戸の方を見てみるとまだ、じーっとお点前を見ていました。

もう一度、微笑みを送ると、何とも言えない微笑みを送ってくれました。

もう一度、振り返ると少年の姿は、そこにはありませんでした。
毎日の下校道だろうから、また、覗いてくれるだろう。

六月の爽やかな風は、なんと素敵なものを届けてくれたことでしょう。

風さん、ありがとう。

令和六年 和暦皐月 新月